旦那は最高!でも5才下のニヤニヤ後輩と不倫生活①

とにかくいけ好かない奴だと思った。私のことを「真理ちゃん」などと呼ぶ。彼は私よりも5歳も年下。入社してまだ2年しか経たない。彼のために指南役を引き受けているが、ニヤニヤするばかり。まるで見下しているみたいで、話しかけるのもバカバカしくなる。
私はとある広告制作会社に勤めている、ごく平凡なOL。旦那は私が働きに出ることを、快く承諾してくれた。これからは女性も男性と同じ目線で働かなきゃいけない時代なんだと、事あるごとに励ましてくれる。私にとっての一番の理解者、あまりにも同じことを繰り返すから、さすがに「またか」という気になる。でも旦那の言葉は、一番の支えでもある。
旦那に比べたら、コイツの態度は何だ。いつもそんな感情を抱いていた。小馬鹿にしたような口元を見るのが、たまらなく嫌だった。でも仕方ない、私は彼と組んでしまった。悪夢のような現実。でも受け入れることが、これからの仕事を進めていくための絶対条件だ。
せっかく忘れかけていたのに…。
彼の表情を見ながら、私は悪夢のような過去の記憶を蘇らせていた。
ソイツの名は古池といった。古池はいつも私のそばで、ニヤニヤしていた。テストや宿題でわからなかった所を、さり気なくレポート用紙にまとめて私に渡しに来る。どうして私のつまずいた所を知っているのか不思議だったが、何しろ薄気味悪くて聞く気がしない。軽く会釈をし解答を読んでいる後ろで、古池はやはりニヤニヤしながら私を見つめている。
成績はいつも学年トップ、ダントツと言っていいほどずば抜けていた。メガネの縁を人差し指で支えながら、正答を出してはニヤニヤする。絵に描いたような優等生だ。普通なら机にへばりついていそうなものだが、古池にはあまりそんなイメージがない。そして人の気配を感じて振り向いてみると、ほぼ高い確率で、何気に私のそばに立っていたりする。
「いつも、ありがとう」
そう声をかけるのが精一杯だった。古池の行動は、当然のように噂になっていた。先生は私のことを気にして、声をかけてくれる。でも何もされていないし、むしろ親切にされているのが実情。いちいち調べたり、人に聞いたりしなくていいので、正直私としては助かっていた。私が礼を言うたびにメガネを指で支え、ただニヤニヤしているだけのことだ。
でもその頃からときどき帰り道にも気配を感じ、振り向くことがあった。決まって背後には誰もいない。きっと古池がいる。そう確信をもつや突然、家の前で待ち伏せられた。
「君の家って、ここなんだね」
「何で古池君が、ここにいるの? わざわざ電車に乗って来たの?」
古池が私に話しかけてきたのは、それが初めてだった。鳥肌が立つというのはこういう感覚なのだと、私は改めて知った気がする。古池はいつものニヤニヤ顔で、何も言わずに去っていった。ほんの数分間のできごと、それが今も頭にこびりついて離れない。卒業して古池の呪縛からは解放されたが、しばらく悪い予感がよぎって、夜中に窓を開けてみたりした。
そしてコイツも、ニヤニヤしている。口元はあの古池そっくりだ。
コイツとペア? コイツと仕事?
冗談でしょ、と言いたくなる。あの時の鳥肌が立った。