最初で最後。憧れの先輩とのデート①

今でもときどき思うのです。あの時もっと強い気持ちをもっていたなら、私の人生は変わっていたかもしれない。でもそれは、時が経っている今だからからこそ言えることかもしれません。後悔はしていません。彼との束の間のひと時は、私の大切な思い出ですから。

今回の東京OneWomanのコラム「恋キオク」は私の忘れられない恋のお話となります。

私の名前は美佐江と言います。年は40を越えてしまいました。もう20年以上昔の話を振り返るのは少し恥ずかしい気もしますが、懐かしく思い出したい気持ちもあります。

あれはまだ、私が社会人になって間もない頃でした。私は高校時代に水泳部に所属していたのですが、その時の部活の先輩が仕事の都合で海外へ行ってしまうことになりました。

高校時代から彼、松宮先輩は私の憧れでした。でもその想いを、とても口に出すことはできませんでした。彼は水泳部の中で一番モテるイケメンでした。私は泳ぐことが好きで入部しましたが、彼が目的で入部する女子もいたのです。取り巻く女子が多く、当時の彼も困っていました。実際マネージャーさんからも「彼には手を出すな」と警告されていました。

私はいつも、目立たない存在でした。水泳部の中でも、忘れられているのではないかと思うことが度々ありました。私自身は休まず毎回部活に参加していたのですが、同じ部員からも知らないふりをされたりするのです。私の高校生活も、平凡なまま終わってしまったかのような気がしていました。でも彼との再会は、そんな高校生活を蘇らせてくれたのです。

彼が海外へ赴任し日本を離れることが決まったので、同窓会に併せてお祝いの飲み会が企画されることになりました。彼に久し振りに会えることを期待しながら、私は淡い思い出を胸に秘めて参加しました。なぜか会には、あまり参加者がいませんでした。彼が一番前のテーブルに座っているのを見つけて、高校時代の時以上にドキドキしていました。

彼を取り巻いていた女子の姿はほとんどなく、当時の騒ぎが嘘のようです。でも私は内心、それを喜んでいることに気づきました。彼と話ができるかもしれない、そんな思いで胸がいっぱいになっていたのです。さり気なく彼のそばにより、彼が私を振り向いてくれることを待っていました。そんな時横から、不意に肩に手をかけられる感触を感じたのです。

「あれっ、君って水泳部にいたっけ? 失礼だけど、誰だっけ?」

それは滝口先輩でした。彼も実はイケメンな先輩で、当時の部活のリーダーでした。私は先輩からも忘れられている存在なのかと戸惑いましたが、返す言葉もなく軽くうなずきました。先輩はそんな私に対して、さらにたたみかけるように話しかけてきました。

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