利用者のお孫さんと不倫してる話⑮

昨日友子がワクワクしていた顔を思い出した。もしかしたら、このときの感情はワクワクだったのかもしれない。
だって、本沢さんが私の目の前にいるんだから!友子はいけないことをしているけれど、あのワクワクしていた昨日の顔が納得できる。
やっぱり私は本沢さんが好きだ。そうでなければ、わざわざ車を移動させたり、声をかけたり、なによりワクワクなんて絶対にしない。自分の気持ちに改めて気が付いた。
「どうも。こんにちは。」
と、軽くあいさつをした。施設以外で会うのはこれが初めてだったからなんだか新鮮な感じだった。
「まさかここでジャムさんと会うとは思ってもいませんでした!この近くにお住まいなんですか?」
「えぇ、そうです。このスーパーはよく買い物するんですよ。」
「ぼくもここから車で5分くらいのところに住んでいてこのスーパーでよく買い物します。」
私と本沢さんはけっこう近所に住んでいたのだった。
本沢さんのおばあちゃんの住所は施設の関係上、目にしたことがあったが家族の住所はおばあちゃんの息子。つまり本沢さんの父親の住所は書類に記載されていたから目にしてはいたけれど本沢さん自身の住所までは全く知らなかった。
確か本沢さんの父親の住所はこの辺の住所ではなかったような気がする。そうなると本沢さんは1人暮らしになるのかな。
「そういえば、」と本沢さんは続けた。
「連絡取ることは迷惑ではなかったですか?」
「いえ、いろいろ聞いてもらって嬉しかったです。」
私は本当のことを答えた。
「それは良かったです。それじゃあ、また連絡しますね。」
と言い本沢さんは自分の車のドアを開けてエンジンをかけ私に一礼して車を走らせた。
私は仕事の時以外に入居者の家族とは会いたくないと思うタイプです。でも、本沢さんとは「もう少し話していたかった」と思った。私は再び車のエンジンをかけて車を走らせた。
家に着いて3日間分の食事を作り終え、お昼頃になり夜勤のために睡眠を取ることにした。ベットに入り考えることは本沢さんのこと。あとは友子の話のこと。
気付けば夕方になっており、家には子供達が帰ってきていた。リビングで娘と息子が二人並んで座っており娘が息子に勉強を教えていた。私は1人っ子だからそういったことは出来ずにいたので嬉しく思った。夜7時前になり、夫も帰ってきて夕食は冷蔵庫に3日分あるからレンジで温めてと伝え仕事に行く準備をしていた。
「日曜日に息子の塾の申込みに行こうと思うんだけど、一緒に行ける?」息子が塾に行くことは反対ではない。勉強に積極的なことはとても嬉しい。でも夫から塾か教師とか、そういったキーワードを聞くのがストレスだった。
「私は今日から夜勤だし日中は寝ているから、お願いしていい?」
行こうと思えば一緒に行けたのだが一緒に行ったらそのキーワードを何度も聞くことになると思ったので、あえて行かない。
「それじゃあ、あとこっちで決めておくよ。」
「うん、お願いね。それじゃあ、仕事に行ってきます。」
私は職場へ向かい、その途中で午前中に本沢さんと会ったスーパーの前を通った。職場に行くにはこの道を通るのが日課だ。
職場で到着して昼勤の人たちから後を継ぎ、仕事に入る。夜勤は事務作業や、夜中の見回りが中心となるので何もなければ忙しいことはなく私が夜勤の3日間も何事もなく終えた。でも、本沢さんから全く連絡がなかった。