利用者のお孫さんと不倫してる話⑥

「あの・・・」
その番号は本沢さんのものとすぐにわかった。良かったらというのは差支えなかったら連絡くださいという意味で間違いない。このときの私は理解が追い付いてなかったのだと思います。きっと戸惑ったような顔をしていただろう。
「不要であれば捨ててください。では失礼します」
本沢さんはそう言うと荷物を積んだ車に乗り込みそのまま去って行った。
時計を見ると9時半。この日の仕事を終えて私は退勤した。家に帰っても夫は仕事、娘は学校。息子は私の実家にいる。
気になるのはさっき渡されたメモ。仕事に行くようのカバンから取り出し書かれた番号を見つめる。もちろん職場のスタッフには言えない。正直連絡したい気持ちはあるけれど仕事の関係もあるし何より私は既婚者。だから連絡は出来ない。そう思いメモをカバンの奥の方に入れ夜勤の疲れを取るためにベッド入った。
目が覚めると子供達がすでに帰ってきていた。いつもより長く寝ていたようだ。今日は金曜日で土日は珍しく2連休。もう少しで年末になり春になれば息子が小学生になるからランドセルを買いに行く約束をしている。それ以外は家でゆっくりする予定。
そして土曜日の夜に私は夫の価値観に納得がいかず不倫への道を進んでしまう出来事があった。
土曜日。ランドセルを買いその夜息子はランドセルを背負ったまま寝ていた。きっと嬉しかったんだろう。娘も勉強して疲れているのかいつもより早く寝ていたので私と夫は久しぶりに晩酌をしたのだが夫は突然
「息子を今から塾に行かせる」
と言い出した。
「急にどうしたの?教師にするため?」
「そうだよ。他に理由はないよ」
夫は教師以外の職業を知らないのだろうか。いや、教師になることが1番だと思っているのだろうか。
「やはり教師が1番。子供が教師になれば鼻も高いしね」
この人の頭の中では教師=1番という公式が出来上がっているのだろう。
「鼻が高いって、子供はステータスじゃないんだよ!」
と私にしては声が大きくなってしまった。夫は少し驚いていたけど言葉を返してきた。
「教師は人に教え続ける人なんだよ。教師がいなければ子供は育たない。つまり日本の未来もないってこと。だから教師は偉い存在であって子供にもそうなってほしいと思うのは当たり前でしょ」
飽きれて反論する気にもなれない。
「それじゃあ、明日息子に聞いてみよ」
通常のしゃべりに戻った。
そこから夫と会話をする気にもなれず読む気もないネットニュースをただただ眺めていた。
ベッドに入り本沢おばあちゃんが亡くなる前に本沢さんが塾の講師をしてると言っていたことを思い出した。人に勉強を教えるという点では学校の先生と同業者のような職業だ。
そう考えると本沢さんと話してみた気持ちが湧き出てきた。同時に”きれいな顔”と言われたことも思い出しベッドの中で私の胸はドキドキしていた。