利用者のお孫さんと不倫してる話⑤

急いで当直の医師を呼んだが結果は老衰により亡くなった。
施設では昨日まで元気だった人が突然亡くなることは珍しいことでない。家族へ急いで連絡するのが決まりだけど正直連絡しづらい。
今まで何度も同じことがあり事務作業するかのように連絡をしてたけれど今回は電話する手が震える。
けど、連絡をしなくてはいけない。振るえる手で電話をすると出たのは本沢さんだった。
何を話せば良いか頭が真っ白になったけど亡くなったことをしっかり伝えご遺体の搬送や部屋の明け渡しなど事務的なことを伝えた。本沢さんは機械のような声ではいとだけ返事した。
それから1時間くらいで本沢さんの家族と葬儀屋が来て亡くなった本沢おばあちゃんのご遺体を運んでいった。荷物に関しては明日連絡します。と本沢さんから伝えられ本沢さんの家族も葬儀屋と一緒に施設を後にした。
朝になる前には何事もなかったかのような日常になった。これも施設では当たり前のことだ。
私は朝9時までのシフトだけど本沢さんからの電話はちょうど9時に来た。
「明日の朝に祖母の荷物を取りに行きます」
機械の声ではないかと思った。叶わない恋の相手がそうなるのは私も辛いものがある。
「かしこまりました」
事務的な声で私はそう答え電話を切り帰りの準備をしタイムカードを押し家に帰った。
家に帰った後は本沢さんと会うのが明日が最後と思うと淋しい気持ちになる。けれど、本人からすれば家族を亡くしたのだから私のことなんてきっと考えてないだろうな。疲れた体を倒すベッドに入った。
17時頃になりようやく私は起きる。外はすっかり暗い。私のおじいちゃんの家に行き子供達を迎えに行き仕事の準備をして夫が帰ってきたと同時くらいに私は職場へ向かう。
この日も夜勤。引き継ぎ連絡は朝の9時に荷物引き取りがあることだけでそれ以外はとくに何もなくいつも通りである。
違うことは明日が来れば本沢さんと他人になることくらいだ。
夜中になり見回りをしても今晩はとくに何事もなく朝を迎えた。
朝出勤のスタッフと共に利用者の朝食の準備をするがこの時間は1日の中で最も忙しくて本沢さんのことを忘れていたけれど一段落し気付けば8時半頃になっていた。9時までにはまだ早かったが本沢さんが荷物を取りに来た。
いつもと変わりない姿の本沢さん。
「おはようございます」
「おはようございます。祖母がお世話になりました」
あいさつを交わし本沢おばあちゃんがいなくなり荷物だけが置いてある部屋へ案内し本沢さんは早速作業を開始した。
「終わりましたらお声がけをお願いします」
私は事務連絡をするかのように言った。作業が終わったと声をかけてもらったのはそれから1時間程経ったときだった。私は部屋に何もないことを確認しその後応接に案内し退去に関する書類の確認をしてサインをしてもらい
「ではこれで、一切終了となります」
手続きの終了と意味と会うのが今日で最後という意味で言った。
「ジャムさんには本当にお世話になり感謝しております」
と頭を下げてくれた。私たちは施設の入口まで行きこれが最後との思い出見送ろうとしたら
「これ、良かったら」
と小さな声で半分に折ったメモ紙を渡してきた。なんだろうと思いながらメモ紙を開いて目を落とすとそこには携帯の電話番号が書いてあった。