利用者のお孫さんと不倫してる話③

本沢さんは施設によく顔を出すからこの頃にはスタッフとはすっかりと顔なじみになっており仲の良いおばあちゃんと孫ってことでスタッフ間でもよく話題になる。
「この前、友達と旅行に行ってきたので。お口に合うかわかりませんが食べてください」
「これはわざわざありがとうございます」
施設の決まりでは金銭や高価なものは受け取れないが一般的なお土産なら受け取っても大丈夫なことになっているのでありがたく受け取りそのお土産を見ると、とても甘いで有名なようかんの包装紙だ。
「これはもしかして甘いで有名なようかんですよね?」
「ええ。そうです。ジャムさんもそうですがこちらのスタッフの皆さんは20代の方が多いので甘い物が良いかなと思いまして」
確かに20代のスタッフは多いけど私は30代前半。ただ私の顔は童顔だし仕事のときは後ろで髪を縛ってるけど髪型は高校生のときからずっとお気に入りのボブヘアにしてるせいか自分で言うのも変だけど20代と間違えられることはよくある。だから特別なにか思うことはなかった。
この数秒後の出来事までは。
「わざわざお気遣いまでありがとうございます」
しっかりとお礼をした後に続けた。
「あ、ちなみに私は30代なんですよ」
何か思い出したかのような口調で言った。施設の決まりで利用者やその家族にあまり深入りしていけないことになってるが、スタッフの皆が本沢さんとは顔なじみで世間話もたまにするようになっていた。施設的には良いことではないけど。
こうして自分の年齢を言うことだって本沢さんに限っては珍しいことではない。
「え?ジャムさん30代だったんですか?」
本沢さんにしては珍しく驚いた表情でそう言ってきた。
「えぇ。そうですよ」
けれど私にしてはよく言われることなのでマニュアル通りの返事をした。けど、私の心を動かす言葉を本沢さんは口にした。
「ジャムさん、すごくきれいな顔ので20代かと思いました。」
この日の仕事を終えゆっくり休み次の日は平日の休みだったので家で1人ゆっくりと過ごすことが出来た。でも、本沢さんに”きれいな顔”と言われたことが頭から離れない。
童顔とは言われ慣れてるけど、きれいな顔と言われたことは過去を思い出しても一度もないし自分でもそう思ってない。
“きれいな顔”
本沢さんに言われたときのことを思い出すと少し恥ずかしいけどとても心地よい気持ちになる。
女子高出身で出会いもなく、介護の業界で働いてる人もほとんど女性。初めて付き合った人が夫。ところが夫はそういったことは言わない。
仕事関係で知り合った男性として見てない年下の男性に不意打ちをくらってその一撃が私には効いたようだ。
今以上の関係になることはないけれど妄想のデートに着ていく服を女性専用の通販サイトで見ながら洋服を眺めていた。