利用者のお孫さんと不倫してる話②

娘が小学校に入学する直前の3月でした。新しい利用者の家族との面談となると5、60代の方が来るのが一般的だけれどこの日は20代に見える少し茶髪で清潔感のある短髪の男性でした。
「こんにちは。来月からお世話になる本沢の孫です」
「こんにちは。ジャムと言います。どうぞよろしくお願いします」
息子さんや娘さんではなくお孫さんが面談に来ることはとても珍しいが家族に変わりはないから実際に使用してもらう部屋を案内した。
本沢さんはまるで自分が住む賃貸物件を選ぶときのように部屋を隅々までじっくり見て
「良い部屋ですね。とくに窓から見える桜なんて最高ですよ」
と部屋の窓の外を見ながら言った。その後は応接室へ案内し事務手続きを済ませたので本沢さんを外まで見送りするときにふと気になったことを聞いた。
「本沢さんはお若いですが学生さんでいらっしゃいますか」
すると本沢さんは笑いながら答えた。
「いえいえ、これでももう27歳ですよ」
「とても若々しいですね」
「ありがとうございます。それでは来月からよろしくお願いします」
本沢さんは笑顔でそう言いながら施設を後にした。
これが私と本沢さんが初めて会ったときのことです。
このときは彼に好意があったわけではなく若々しい好青年だな~くらいにしか思ってませんでした。
それから4月になり娘は小学校に入学。それと同時期に本沢さんの家族である本沢おばあちゃんが施設に入ってきた。
本沢おばあちゃんは80才になる。足腰が弱く杖か手すりがないと自力で歩くのは無理なので施設に来たのだ。
もちろんその日には本沢さんも施設に来た。あいさつをして部屋へ本沢おばちゃんの荷物を運び入れる。荷物は最低限しかないので1時間も経たないうちに全てを運び終わり私と手の空いているスタッフ何人かは本沢おばあちゃんに自己紹介をした。
本沢おばあちゃんは1人1人に丁寧によろしくね。とあいさつを返した。とても笑顔が似合うおばあちゃんだ。こんなおばあちゃんならあんな好青年の孫になるなって思った。
特養やデイサービスで働いたことがある方であればわかるかと思いますが利用者の中にはスタッフの言うことを全く聞かない利用者の方のいるし文句しか言わない利用者の方もいる。
それに対して本沢おばあちゃんは素直でスタッフに文句も言わないしそれどころかスタッフがミスしても
「誰にでもそういうことあるんだから頑張ってね」と励ましてくれる。
息子さんと息子さんのお嫁さんは仕事が忙しくて顔出せることは少ないけれどそれでも顔を出せば楽しく会話をしている。お孫さんの本沢さんも用事がなくても月に何度か顔を出しにくる。
介護の業界はいろんな家族事情を目にすることはあるけれど私の中では本沢一家は幸せを絵に描いたような家族である。
本沢おばあちゃんが来てから1年程が経ち本沢さんがスタッフで食べて下さいと旅行のお土産を差し出してくれた。