単身赴任の既婚者男性②

「今週末は仕事終わったら時間ある?会社の近くで夜ごはんでもどう?」
自然な流れで鶴見さんから誘ってきた。鶴見さんは単身赴任で地方から出てきてるため食事はいつも1人で済ませておりたまに今のように会社の誰かを誘ってくる。私もいつのことか忘れたけれど鶴見さんと2人で夕食に行ったことがあった。
「いいよ。」
鶴見さんには安心感があったので2人で出かけることには抵抗がなかった。
いや、2人で出かけたかったと言った方が正しいかもしれない。だから「既婚者なのに大丈夫ですか?」とは聞かなかった。
鶴見さんと出かける週末になりその日の仕事を終えた私たちは2人とも1時間くらいの残業だけだったので夕食にはちょうど良い時間だった。
2人で会社を出て近くのイタリアンと和風が合わさったような小さな居酒屋に入った。
週末だけど、時間が早いせいか客数はかなり少なかった。
私たちは料理を注文し食事をしながら会社のことや世間話をした。
鶴見さんは確かに既婚者だけど指輪もしてないし家庭のことを話してるのも聞いたことないので結婚してるって感じはしないから私は鶴見さんと恋人になった気分だった。
「なんだか恋人みたいだね。」
私の思ってたことを鶴見さんが口にした。少しだけお酒が回ってきたせいもあるのかわからないけれどそう思ってもらえることが私は素直に嬉しかった。
鶴見さんが既婚者じゃなければ「「みたい」じゃないよね。」とか言ってその流れで
付き合うことになるのに。
「そうだね。鶴見さんが独身ならアプローチするんだけどな!」
本音のような冗談のようなあいまいなことを言っても
鶴見さんは冗談として受けてくれるんだろうと思っていたけれど
「既婚者でもアプローチしてくればいいのに笑」
なんてことを鶴見さんは言ってきた。お酒のせいもあったせいか本気なのか冗談なのか見分けがつかない。
不倫はいけないと気持ちももちろんありましたがこのときの私は周りが結婚して1人取り残された女。
いけない気持ちより寂しさを埋めたい気持ちのほうが大きかったから鶴見さんの言葉が本気であることを強く願っていた。
けれど、この日は楽しく食事をし解散。それ以上のことには発展することはありませんでした。
家に帰りベットで横になりながら通販サイトをスマホで見ながら次に買う服を考えていた。
週が明け出社すとそこにはいつもの鶴見さんの姿があり、私たちは週末のことが何もなかったかのように「おはよう」といつも通りにあいさつを交わした。
いつも通りの仕事でしたがその日の昼休憩には先週末と同様に鶴見さんが社内におりコンビニのお弁当を食べておりました。
「今日も一緒に良かったかな?」と断りを入れてから私は鶴見さんの隣に座りました。
「先日はありがとうね。楽しかったよ。」と鶴見さんにお礼をし、「今日もこの後近くに営業行くの?」と続けた。
「こちらこそ、ありがとう。今日もまた会社近くの病院に営業だよ。」と数秒の沈黙を挟んで「また誘っても大丈夫かな?」
むしろ、誘ってほしい。と思ったけれど口にするには社内だし恋人でもないわけだから出来るはずがない。
「私で良ければいつでも。」くらいの返事しかできない。先日の言葉が気になってお互いなんだか言葉にぎこちなさが感じられる。
「それじゃあ、今週末はどう?時間ある?」
2週続けて誘ってもらえるのは嬉しいけれど、鶴見さんの奥さんは大丈夫なのだろうか。
「おれのことは気にしなくていいよ。」
と私の思ったことを先に言われて断る理由なんてなかったので遠慮なく
「うん。それじゃあ週末ね。」